英語学習を進める中で、アメリカ英語とイギリス英語の間には発音や単語に違いがあることは広く知られています。しかし、中級者以上の学習者、特にIELTSや海外でのコミュニケーションを目指す方にとって、単語の違い以上に重要で、かつ見落とされがちなのが「文法や慣用句」の違いです。
文法や表現のわずかなズレは、リスニングでの「違和感」や、ライティングの「不自然さ」を生み出します。
例えば、
- イギリス人が
Have you got a minute?と言ったとき、それが米語のDo you have a minute?と同じ意味だと瞬時に理解できますか? - イギリスのニュースで
The team are playing well.と聞いたとき、「なぜ主語が単数なのに動詞が複数なんだ?」と戸惑いませんか?
本記事では、この米英の文法・表現の「ズレ」に焦点を当て、特に完了形の使い方、前置詞の選択、集合名詞の扱いなど、IELTS対策やより自然な英語運用に必須の知識を徹底的に解説します。単語の違い以上に奥深い、英語の**「骨格」**に関わる知識を身につけ、あなたの英語の世界をさらに広げましょう。
1: 完了形の使用頻度の違い
アメリカ英語とイギリス英語の文法的な違いの中で、最も使用頻度に差が出やすく、リスニングで混乱しやすいのが「現在完了形」の使い方です。
1-1. 現在完了形 vs. 過去形
過去の行為が現在と関連している場合、イギリス英語話者は現在完了形(have + 過去分詞)を非常に好みます。一方、アメリカ英語話者は、同じ状況でも過去形を使う傾向が強くあります。
特に、just(たった今)、already(すでに)、yet(まだ)といった副詞を使う場合に、この違いが顕著に表れます。
| 状況 | イギリス英語(英) | アメリカ英語(米) |
| (英)たった今到着した | I have just arrived. | I just arrived. |
| (英)もう宿題を終えた | I have already finished my homework. | I already finished my homework. |
| (英)彼らはまだ食べていない | They haven’t eaten yet. | They didn’t eat yet. |
🔑 ポイント:
イギリス英語では「過去の行動が現在に影響している」というニュアンスを強調するため、現在完了形を文法的に正確に使います。アメリカ英語では、その過去の行動を「終わったこと」と捉え、過去形で済ませてしまう合理的な傾向があります。
1-2. 動詞 “have” の表現
所有や義務を意味する動詞 “have” を使う疑問文や否定文でも、両者に違いが見られます。これは、単語(語彙)の違いではありませんが、表現全体(慣用句的表現)の違いとして非常に重要です。
| 意味 | イギリス英語(英) | アメリカ英語(米) |
| (所有)車を持っていますか? | Have you got a car? | Do you have a car? |
| (否定)宿題がない | I haven’t got any homework. | I don’t have any homework. |
| (義務)私は行かなくてはならない | I have got to go. (または I have to go.) | I have to go. |
🔑 ポイント:
イギリス英語で多用される have got は、現在完了形のように見えますが、所有や義務を表すひとつの表現として機能しています。アメリカ英語ではシンプルな do/does を使った形式が一般的です。
2: 動詞の過去形・過去分詞の違い
一部の不規則動詞(Irregular Verbs)や、過去形・過去分詞のルールについて、アメリカ英語とイギリス英語で異なる形が使われることがあります。この違いはライティングやIELTSのような検定試験で特に重要になります。
2-1. 動詞 get の変化:got vs. gotten
最も顕著な違いは、動詞 get の過去分詞形です。
| 動詞 | 現在形 | 過去形 | 過去分詞 | 使用地域 |
| get | get | got | gotten | アメリカ英語 |
| get | get | got | got | イギリス英語 |
例文:
- 米: I have gotten tired of this job. (この仕事に飽きた)
- 英: I have got tired of this job. (この仕事に飽きた)
🔑 ポイント:
イギリス英語では got が過去形と過去分詞の両方に使われます。アメリカ英語では、特に「~になる」「~を得る」という意味の完了形で gotten を使うのが一般的です。ただし、have got(所有)の慣用表現ではアメリカでも過去分詞は got を使います(例:I’ve got a car.)。

とはいえ、アメリカでもgotを過去分詞として使われているのをよく耳にしました。
2-2. その他の不規則動詞の変化
他にも、過去形・過去分詞が規則変化(-ed)になるか、不規則変化になるかで違いが見られる動詞があります。
| 動詞 | 意味 | イギリス英語(英) | アメリカ英語(米) |
| learn | 学ぶ | learnt (不規則) | learned (規則) |
| spell | スペルを書く | spelt (不規則) | spelled (規則) |
| burn | 燃やす | burnt (不規則) | burned (規則) |
| fit | サイズが合う | fitted (規則) | fit (不規則/規則) |
例文:
- 英: She learnt to drive last year.
- 米: She learned to drive last year.
🔑 ポイント:
イギリス英語では、過去形や過去分詞が -t で終わる不規則変化を好む傾向があります。アメリカ英語では、なるべく -ed をつける規則変化に統一しようとする傾向が強く、ここにも「合理化」の思想が見られます。

これ知っているとリーディングに効果的です!
3: 前置詞の使い方の違い
前置詞の選択は、文法や語彙というよりも慣用的な表現の違いです。日常会話で頻繁に出てくるため、相手がどちらの英語を話すかによって、一瞬の違和感や聞き間違いにつながることがあります。
3-1. 時間を表す前置詞:on vs. at
週末や特定の期間を表す前置詞は、米英で最もよく違いが見られる部分です。
| 表現 | イギリス英語(英) | アメリカ英語(米) | 意味 |
| 週末に | at the weekend | on the weekend | |
| ~まで(含む) | from Monday to Friday | from Monday through Friday |
例文:
- 英: What are you doing at the weekend?
- 米: What are you doing on the weekend?
🔑 ポイント:
イギリス英語では時間を点で捉える感覚で at を使いますが、アメリカ英語では表面に触れる感覚で on を使う傾向があります。
3-2. 場所・位置を表す前置詞:in vs. on vs. at
学校や通り、公共交通機関など、場所を示す際の前置詞も異なります。
| 状況 | イギリス英語(英) | アメリカ英語(米) | 意味 |
| 学校/大学で | at university/school | in college/school | |
| 通りに | in the street | on the street | |
| チームで | on a team | in a team | |
| 病院に入院中 | in hospital | in the hospital | 冠詞の有無にも注意 |
例文:
- 英: She is still at university.
- 米: She is still in college.
🔑 ポイント:
「通り」に関しては、イギリス英語では通りの中の空間を意識して in、アメリカ英語では通りの表面を意識して on を使う傾向があります。どちらを使っても大意は通じますが、どちらの地域で話しているかを意識して使い分けると自然です。
4: 集合名詞の扱いの違い(IELTS対策必須)
この違いは、特にアカデミックな文書やニュースで頻繁に見られます。IELTSのライティングや、リスニングでイギリスのニュースを聞く際に知っておくと、文法的な違和感を解消できます。
4-1. 集合名詞の単数扱い vs. 複数扱い
family(家族)、team(チーム)、government(政府)、staff(職員)といった集合名詞を扱う際に、動詞の単数・複数の選択に違いが出ます。
| 地域 | 考え方 | 例文 |
| イギリス英語(英) | 構成員一人ひとりの行動や意見に焦点を当てる場合、複数扱いを許容する。 | The government are considering new policies. |
| アメリカ英語(米) | 集合体を一つの組織として捉えるため、単数扱いを原則とする。 | The government is considering new policies. |
例文の比較:
| 状況 | イギリス英語(英) | アメリカ英語(米) |
| (チームの活躍) | The team are playing very well today. | The team is playing very well today. |
| (家族の行動) | My family are coming over for dinner. | My family is coming over for dinner. |
🔑 IELTSライティング対策:
イギリス英語圏の試験であるIELTSでは、ライティングでどちらを使っても文法的な間違いにはなりませんが、一般的には一貫性が求められます。アカデミックモジュールなどで「英国」の情報を参照する場合、複数扱いの文に出会うことを知っておくと、文構造の理解が深まります。
4-2. 固有名詞の扱い
スポーツチームや企業名などの固有名詞であっても、イギリス英語では構成員に焦点を当てることで複数扱いになることがあります。
- 英: Manchester United are leading by two goals.
- 米: The Yankees is leading by two runs. (企業名などでも単数扱いが原則)
🔑 ポイント:
イギリス英語では、集合名詞を複数扱いにするかどうかは話し手の「何を意識しているか」にかかっています。組織全体を意識すれば単数、メンバーを意識すれば複数、となります。
5: その他の重要な文法・表現の違い
5-1. 助動詞 shall の使用
助動詞 shall はアメリカ英語ではめったに使われず、非常にフォーマルで古風な響きがあります。しかし、イギリス英語では今でも特定の文脈で使われています。
| 状況 | イギリス英語(英) | アメリカ英語(米) |
| 提案・勧誘 | Shall we go now? | Should we go now? / Why don’t we go now? |
| 意志・決定 | I shall be there by 5 PM. | I will be there by 5 PM. |
🔑 IELTSリスニング対策:
イギリス英語では、「Shall I/we…?」という形が、「〜しましょうか?」という提案や勧誘の非常に一般的な表現です。米語の感覚で「will」や「should」を待っていると聞き逃す可能性があるため、このリズムを覚えておきましょう。
5-2. 慣用表現の細かな違い
文法構造や動詞の後の前置詞が異なることで、表現全体が変わる例もあります。
| 状況 | イギリス英語(英) | アメリカ英語(米) |
| 「私に手紙を書く」 | Write to me. | Write me. |
| 「~と異なる」 | different to / different from | different from / different than |
| 「部屋にいる」 | I am in the room. | I am in the room. |
| 「〜から電話を受ける」 | hear from someone | hear from someone |
🔑 ポイント:
different to はアメリカ英語では誤りだとされることがありますが、イギリス英語では different from と並んで一般的に使われます。また、write の後の to の有無のように、イギリス英語の方が規範的な文法を残している傾向が見られます。
📚 まとめ:文法の違いを知ると英語が立体的に見える
アメリカ英語とイギリス英語の文法・慣用句の違いは、単語の違いよりもさらに英語の骨格に関わる重要な知識です。
- 完了形: 英は過去の行為と現在のつながりを重視(Have you got / have just done)。
- 過去分詞: 米は合理化を進め、
gottenや規則変化を好む。 - 前置詞: 英は at the weekend、米は on the weekend など、慣用的な違いが多い。
- 集合名詞: 英は複数扱いを許容し、文法に幅がある。
これらの違いを理解することで、ニュースやドラマのセリフがよりクリアになり、IELTSなどの試験対策でも、どちらの英語が使われているかを瞬時に判断できるようになります。
重要なのは「どちらが正しいか」ではなく、「どちらの表現がその地域で自然か」を知ることです。あなたの学習目標に合わせて、どちらかの表現を一貫して使うよう心がけましょう。


