「USCPAはアメリカの資格だから、カナダに行ったら意味ないのでは?」
「結局、CPA Canadaを取り直さないとキャリア開けないんでしょ?」
カナダ移住や現地就職を考えているUSCPA受験予定者・保持者であれば、一度はこんな不安を感じたことがあると思います。
結論から言うと、
USCPAはカナダ就職・CPA Canada取得の“強力なショートカット”になり得る国際資格
です。
その理由は、日本にはイメージしづらい「相互承認協定(MRA: Mutual Recognition Agreement)」の存在になります。
このMRAのおかげで、条件を満たしたUSCPA保持者は、通常ルートでは2〜4年以上かかるCPA Canadaへの道のりを、大幅にショートカットできます。
CPAマニトバが公開している統計でも、海外資格保持者(IEA)のうち、MRA対象のプロ会計士は登録率8割超・登録までの期間は数カ月程度と、他のルートと比べて圧倒的に有利であることが示されています。
本記事では、
- USCPAがカナダで評価される理由
- MRA経由でCPA Canadaを取る具体的な仕組み
- 通常ルート(PEP/PREP)との違い
- 絶対に押さえておくべき「居住ステータス」などの条件・注意点
- これからUSCPAを取る人・すでに保有している人向けの現実的な戦略
を、公式情報をベースに整理していきます。
USCPAはカナダでどこまで通用するのか?
カナダ移住や現地就職を考える人にとって、まず気になるのは「USCPAという資格そのものがどこまで評価されるのか」という点だと思います。
実際、SNSや口コミでは「カナダではCPA Canadaが全て」「USCPAは意味がない」といった極端な意見も見かけるため、不安を抱くのはごく自然なことです。
しかし、実際の求人動向や企業が求めるスキルセットを見ていくと、カナダ市場には“USの会計・税務を理解している人材”に対する明確な需要があります。
ここでは、カナダという特殊なマーケットでUSCPAがどれほどの価値を発揮し、どんな場面で評価されるのかを、まずは全体像から整理していきます。
1-1. カナダは「アメリカと隣り合わせ」のマーケット
カナダ経済はアメリカと非常に結びつきが強く、
- 米国親会社を持つカナダ子会社
- 米国市場に上場しているカナダ企業
- 米国市民・グリーンカード保有者向けの税務サービス
など、「US GAAP」「US Tax」「SOX対応」の知識が直接必要となる場面が日常的にあります。
こうしたポジションでは、
- US GAAPでの決算・レポーティング経験
- US税務に関する知識
- SOX(サーベンス・オクスリー法)に基づく内部統制
といったスキルがそのまま評価され、USCPAは即戦力候補として見られやすい資格です。

最近の関税問題で両国で多少の摩擦があるものの、二国間の関係はやはり切ってもきれないものです。
1-2. USCPAを活かしやすい代表的なキャリアパス
カナダ主要都市(トロント・バンクーバーなど)で、USCPAがどのようなポジションで活かせるかを整理すると、イメージがつきやすくなります。
USCPAが活きる主なフィールド
- Big4など国際系監査法人
- US Tax部門
- クロスボーダー税務コンサル
- US上場企業向けアドバイザリー
- 多国籍企業の経理・財務
- US GAAPベースでのレポーティング
- 米国親会社向けレポート作成
- リージョナルコントローラー職
- コンサルティングファーム
- SOX対応・内部統制構築支援
- M&A・クロスボーダー案件の会計アドバイザリー
- 中小会計事務所・ブティックファーム
- 米国進出を目指すカナダ企業の支援
- カナダ在住米国人向け税務サービス
カナダ現地のCPAだけでは対応しづらい「アメリカ側のルールが分かる人」として、USCPAはニッチだけれどニーズの高いポジションを狙えるのが強みです。
USCPA → CPA Canada:MRA(相互承認協定)の仕組み
USCPAとCPA Canadaをつなぐキーワードが、このMRA(Mutual Recognition Agreement)=相互承認協定です。
名前だけ聞くと難しそうに感じますが、要は「一定条件を満たしたUSCPAなら、カナダのフルプログラムを最初からやり直さなくてもよい」という特別ルートのこと。
ただし、このルートを使うにはクリアすべき条件があり、誤解されやすいポイントも少なくありません。
ここでは、まずMRAがどんな仕組みなのか、その“全体像”をわかりやすく整理していきます。
2-1. そもそもMRAとは?
CPA Canadaは、USのNASBA/AICPAとMutual Recognition Agreement(MRA)を締結しており、一定条件を満たすUSCPAは、カナダCPAへの登録で特別ルートを使えます。
この協定により、
- ゼロからCPA Canadaプログラム(PEP/PREP)を完走しなくても
- USCPAの資格と実務経験を評価してもらい
短期間でCPA Canadaへ移行できる道が用意されています。
2-2. MRAの主な適格要件(ざっくり)
CPA Canadaが公表しているMRAの概要を整理すると、USCPA側の主な条件は以下の通りです。
MRA経由でCPA Canadaを目指すUSCPAの主な要件
- USCPAライセンス保持 & Good Standing
- 州のState Boardが発行するライセンス保有者であること
- CPE(継続教育)の条件を満たし、Good Standingであること
- 150単位(学部+追加単位)レベルの学歴
- 合計150セメスターアワー相当の大学教育
- 学士以上の学位(古い制度で資格を取った人は特例あり)
- 30か月の関連実務経験
- 会計・監査・税務などの関連実務を30か月以上
- 一部は「資格取得後の経験」であることが求められる(詳細は各州規定)
- CPE要件の遵守
- 所属State BoardのCPEを満たしていること
- その上でState Boardから「Good Standingレター」を発行してもらう
- 米CPAを相互承認で取った人は対象外
- 他国資格 → reciprocity でUSCPAになったケースなどはMRAの対象外
これらを満たしていれば、「USCPAとして普通にライセンスとキャリアを積んでいる人」であれば、現実的に狙えるルートと言えます。
通常ルート(PEP/PREP)とMRAルートの違い
USCPAがカナダで強いと言われる理由をより深く理解するためには、
まず「通常ルート(PEP/PREP)」と「MRAルート」がどれほど違う道なのかを把握しておくことが欠かせません。
表面的には同じ「CPA Canadaを取得するプロセス」でも、
必要な学習量、期間、リスク、途中離脱者の多さなど、実際の負担はまったく異なります。
特に海外からカナダを目指す人の場合、
どのルートを選ぶかでキャリアのスタート時期が数年単位で変わることも珍しくありません。
ここではまず、両ルートの“構造的な違い”をシンプルに押さえたうえで、
どれだけMRAが特別か、なぜ多くのUSCPA保持者がこのルートを活用しているのかを、わかりやすく整理していきます。
3-1. 通常ルート:PEP/PREPはどれくらい大変?
海外資格なしでCPA Canadaを目指す場合、多くの人は以下のフローを通ります。
- CPA PREP(前提科目)
- 大学の単位が足りない人向けの「前提14科目」
- 学歴次第では1.5〜2年以上かかるケースも
- CPA PEP(Professional Education Program)
- コア2モジュール+選択2モジュール+Capstone2+CFE
- 多くの人が16〜24ヶ月程度かけて修了
- 実務経験(PER)
- 最低30か月の実務経験が必要(学習と並行して積むことが多い)
学歴・経験によっては、トータル2.5〜4年以上かけてCPA Canada資格を完成させるのが標準的なイメージです。
3-2. MRAルート:USCPA経由だと何が違う?
CPAマニトバがまとめた「Internationally Educated Accountants(IEAs)」のレポートでは、
- プロ会計資格(MRA対象など)を持つIEAは
- 登録率:80%超
- 登録までの期間:中央値 約3カ月
と、通常ルートよりはるかにスムーズに登録できていることが示されています。
一方で、海外資格なしでPREP/PEPから始めるIEAは、
- PREPだけで数年かかるケースも多く
- PEPやCFE、30か月のPERを完了できず脱落してしまう人も多い
という厳しい現実が数字に出ています。
つまり、
USCPAを持ったうえでMRAルートを使うと、
「何年もかかる可能性があるフルコース」をほぼスキップできる
というのが本質です。
見落とし厳禁!「カナダ居住ステータス」と追加要件
ここからが一番重要なポイントです。
4-1. カナダ居住者としてUSCPAを受験するとどうなるか
CPA CanadaのMRA文書では、「カナダ居住者である間にUS CPA試験を受けた人」に対して、追加要件が課されることが明記されています。
具体的には、
カナダ居住者としてUSCPA試験の一部または全部を受験した場合、
MRAを利用するには、次のいずれかが必要
- 米国またはメキシコの大学で、フルタイム・対面授業で取得した学位
- (オンラインや通信教育はNG)
- 米国またはメキシコでのフルタイム会計実務経験 1年以上
など。
これは、日本 → いきなりカナダ移住 → カナダに住みながらUSCPA勉強 & 受験、という流れを考えている人にはかなりハードルが高い条件です。
4-2. 鉄則:カナダ移住前にUSCPAを終わらせる
上記を踏まえると、MRAをフル活用したい人の鉄則はシンプルです。
【鉄則】カナダ居住者になる前に、USCPA試験をすべて合格しておく
さらに言えば、
- 日本などカナダ以外の国に住んでいるうちに
- USCPA試験合格(4科目)
- 150単位の学歴条件充足
- 30か月の実務経験(できればUSCPAライセンス取得に必要な形で)
- ライセンス発行 & CPEでGood Standing維持
まで揃えてからカナダ移住するのが、最もシンプルでリスクが低い戦略です。
合格後の支援も厚い!
MRAを使ってCPA Canadaになるまでの流れ
ここでは、すでに(またはこれから)USCPAライセンス取得を目指す人向けに、典型的なステップを整理します。
5-1. 日本など海外でUSCPAライセンスを完成させる
- 出願州の選定
- 150単位ルールや実務要件を考慮して、自分に合った州を選ぶ
- USCPA試験4科目に合格
- 必要単位数(150単位)を満たす
- 実務経験(通常1〜2年程度)を実務監督CPAの下で積む
- USCPAライセンスを取得し、CPEでGood Standingを維持
ここまでが「カナダに行く前の準備フェーズ」です。
5-2. カナダ移住後:MRA申請〜CPA Canada登録
カナダ移住後、MRAを使う場合の大まかな流れは次の通りです。
- 希望する州のCPAボディを決める
- CPA Ontario、CPA British Columbia、CPA Albertaなど
- MRA/RMA用の申請フォームを提出
- 「MRA/RMA International Applicant Form」など
- 一部地域ではCPA Nova Scotiaが事務局を担うケースもあり
- State BoardにGood Standing証明を依頼
- 資格取得日、ライセンス状態、CPE遵守状況などを記載したレターを
State Board → CPA側に直接送ってもらう
- 資格取得日、ライセンス状態、CPE遵守状況などを記載したレターを
- 学歴・職歴の証明提出
- 大学の卒業証明・成績証明
- 実務経験の内容・期間が分かる書類
- カナダでの就労許可等の証明
- 永住権・就労ビザなどのコピーを提出
- 年会費・登録料の支払い
- 申請手数料・年会費など(州により異なる)
- CPARPD/CPAREの受講
- CPARPD(CPA Reciprocity Professional Development)
- カナダの税制・法規・倫理などを約20時間のオンラインで学ぶ研修コース
- 監査ライセンスまで狙う場合はCPARE(CPA Reciprocity Education and Examination)が必要になる場合もある
- CPARPD(CPA Reciprocity Professional Development)
必要書類が全て揃った「完全な申請」とみなされてから、
処理期間の目安は約12週間(3〜4カ月)とされています。
これからUSCPAを目指す人向けの戦略プラン
最後に、「これからUSCPAを取るけど、将来カナダも視野に入れている」という人向けに、現実的なロードマップをまとめます。
6-1. USCPAをカナダ戦略に組み込む考え方
- USCPAを“目的”ではなく“手段”として捉える
- ゴール:カナダでCPAとして長期的にキャリアを築くこと
- USCPA:そのための最速ルート(MRAチケット)
- 出願州選びの時点で「ライセンスまで」を設計
- 「試験だけ合格」だと、MRA要件を満たさない可能性が高い
- ライセンス取得までに必要な学歴・実務要件を逆算しておく
- 日本にいるうちに「USCPA+実務+ライセンス」を揃える
- 移住後に足りない要件を埋めようとすると、時間もコストも増える
6-2. すでにUSCPAを持っている人がチェックすべきポイント
すでにUSCPAを保有していて、「これからカナダも考えたい」という場合は、次のチェックリストを見直してみてください。
- ✅ 「ライセンス持ち」か、「試験合格のみ」か
- ✅ State BoardのGood Standingを維持できているか(CPEは足りているか)
- ✅ 実務経験は30か月相当あるか
- ✅ USCPA試験を受けたとき、カナダ居住者だったことがあるか
- ある場合、US/メキシコの大学学位 or US/メキシコでの1年実務の要件に当てはまるか
ここで引っかかる項目がある場合は、
- どの州のCPAボディに相談するか
- 自分の条件でMRAが使えるのか
- 使えない場合は、どこまでPEP/PREPをやる必要があるのか
を早めに確認しておくと、キャリアの選択肢が見えやすくなります。
まとめ:USCPAは「カナダで意味がない」どころか、戦略次第で最強の武器になる
- USCPAは、
- US GAAP・US Tax・SOX対応など、カナダでもニーズの高い領域で強みを発揮できる
- CPA CanadaとのMRAを活用すれば、
- 通常2〜4年以上かかるCPAプログラムを大幅にショートカットして
- 比較的短期間でCPA Canadaに移行できる
- ただし、
- ライセンス(Good Standing)
- 30か月の実務経験
- カナダ居住前にUSCPA試験を終えること
など、見落とすと遠回りになる条件も多い
✅ キーになる戦略は、
「カナダ移住前に、海外でUSCPAライセンス+実務を固めておく」こと。
これからUSCPAを目指す人も、すでに保持している人も、
「どのタイミングでどの国にいるか」という時間軸を意識してプランを立てることで、カナダでのキャリアの開き方は大きく変わります。
📚 参考リンク
海外資格・移住制度は毎年少しずつ更新されるため、
「MRAが使えると思っていたのに条件が変わっていた」というケースも起こり得ます。
実際に手続きを進める際は、上記の公式ページをあわせてご確認ください。
● CPA Canada – Mutual Recognition Agreements(MRA関連)
https://www.cpacanada.ca/
● CPA Manitoba – Internationally Educated Accountants(IEA)レポート
https://www.cpamb.ca/
● NASBA(全米州会計委員会) – International Pathways / CPA情報
https://nasba.org/
● AICPA(米国公認会計士協会) – IQAB / 国際資格関連
https://www.aicpa.org/


