「USCPA(米国公認会計士)を持っていれば、本当に海外で働けるのか?」
この疑問は、キャリアアップを目指す社会人にとって、常に付きまとうテーマでしょう。USCPAの取得には、数ヶ月〜1年以上の時間、そして受験料や教材費に大きなコストを投じることになります。
実際に資格を取得した後、この多大な投資が海外でのキャリアにどのくらいのリターンをもたらすのでしょうか?
資格だけで即戦力として評価されるのか? それとも、現地経験や高い英語力が必須なのか?
この記事では、2024年1月からの新試験制度と最新の国際相互承認協定(MRA)に基づき、USCPAの真の価値を国別に整理し、戦略的に活かすロードマップを徹底解説します。
資格を「持つ」ことと、「活かす」ことは別物です。
戦略的に動けば、USCPAはあなたの海外キャリアを切り拓く強力な武器になるでしょう。
USCPAの資格価値とは?—2024年新制度と国際承認の現状
米国公認会計士の資格概要と新試験制度(CPA Evolution)
USCPAは、アメリカで会計・監査・財務分野の専門家として働くための国家資格です。
この資格の価値は、単なる知識の証明に留まりません。
難関な英語の試験を突破する過程で、専門知識はもちろん、高い論理的思考力と問題解決能力を習得したことの証明となるからです。
しかし、2024年1月、USCPA試験制度は大きな変革を迎えました。旧制度(FAR, AUD, REG, BECの4科目)から、より専門性の高い人材を育成するための「CPA Evolution」という新制度に移行しています。
USCPA新試験制度の構成(合計4科目)
カテゴリ | 科目名(略称) | 旧BEC科目の扱いは? |
コア科目 (Core: 必須3科目) | Financial Accounting & Reporting (FAR) | 内容の一部はコア科目へ再配分。 |
Auditing & Attestation (AUD) | ||
Regulation (REG) | ||
ディシプリン科目 (Discipline: 3科目から1科目選択) | Business Analysis & Reporting (BAR) | BECの財務・IT・エコノミクスが再編され、高度な内容に。 |
Information Systems & Controls (ISC) | BECの情報技術(IT)が大幅に専門化。 | |
Tax Compliance & Planning (TCP) | REGの税務を深く掘り下げた専門科目。 |
特に重要な変更点は、旧BECにあった「記述式問題(Written Communication)」が廃止されたことです。これは、受験戦略を大きく変えるポイントであり、より実務的な分析力や判断力が問われる傾向が強まっています。

💡キャリア戦略への影響: ディシプリン科目の選択は、あなたの専門性とキャリアの方向性を決定づけます。例えば、ITコンサルや内部監査を志望するならISC、国際税務やプライベートエクイティを志望するならTCPを選ぶなど、将来を見据えた選択が必須になります。
海外での承認状況:相互承認協定(MRA)の最新リスト
USCPAは、米国外でも相互承認協定(Mutual Recognition Agreement, MRA)を結んだ国・地域で大きな力を発揮します。
MRAとは、USCPA資格を持っていれば、現地のCPA資格にほぼ匹敵する評価を受けることができ、現地の試験や手続きが最小限で済むという画期的な制度です。
【2025年時点 】MRA提携国・地域
現在、USCPAがMRAを結んでいるのは、以下の7つの国・地域です。
- カナダ (Canada)
- オーストラリア (Australia)
- ニュージーランド (New Zealand)
- アイルランド (Ireland)
- スコットランド (Scotland)
- メキシコ (Mexico)
- 南アフリカ (South Africa)
⚠️:かつて言及されることがあった香港は、現在MRA提携国に含まれていません。常に最新の情報を確認することが重要です。
このMRA提携国で働く場合、資格が直接的に現地CPAと同等の信頼性として機能するため、就職・転職活動における強力なパスポートとなります。
戦略別!USCPAを最大限に活かす国別キャリアプラン
USCPAを海外で活かす戦略は、大きく「MRA承認国を狙う」と「米国・非承認国で差別化する」の2つに分かれます。
1. MRA承認国(カナダ、オーストラリアなど)を狙う:最も確実な道
MRA承認国は、USCPAを活かした海外キャリアにおいて、最もリスクが低く、効率的な選択肢です。
メリット:資格が直接的な武器になる
- キャリアアップの短縮: 現地CPA登録に必要な試験や研修が大幅に免除される、あるいは簡略化されるため、現地で働き始めるまでの期間が短縮できます。
- 給与・ポジションの優位性: 採用担当者から「現地の資格保持者と同等」と見なされるため、経験が浅くても、給与交渉や初期のポジション獲得で有利に働くケースが多々あります。
- 認知度の高さ: 現地会計事務所やBig4、多国籍企業において、USCPAは「高い専門性を持つ人材」として即座に認知されます。
具体的な活用例(オーストラリア・カナダ)
国 | 活用の具体例と成功イメージ |
オーストラリア | 「ハイブリッド人材」として評価。 英語ネイティブでないアジアからのUSCPA保持者は、日本市場への対応や、US GAAP(米国会計基準)を導入する企業へのコンサルティング案件で重宝されます。現地CPA(CA/CPA Australia)への移行も比較的スムーズ。 |
カナダ | 米国市場への橋渡し役。 カナダ企業は米国との取引が多いため、US GAAPや米国の税務知識を持つUSCPAは必須級の人材です。特にトロントやバンクーバーのBig4では、クロスボーダー案件のチームで中核を担うチャンスが多くあります。 |
【成功へのロードマップ】
- 希望国の決定とMRA要件の確認: どの州・管轄地域のCPAに移行したいかを確認し、追加で必要な研修や実務経験(多くの場合、追加の試験は免除されます)を把握する。
- 語学力の向上: 資格の価値を最大限にするには、TOEFL iBT 90点以上、IELTS 7.0以上など、ハイレベルな英語力が求められます。資格取得と並行して磨く。
- 求人リサーチ: 求人票の「CPA preferred」や「USCPA accepted」を徹底的にチェックし、専門分野(ディシプリン科目で選んだ分野)とのマッチングを図る。
2. 米国(母国)で挑戦する場合:高い競争を勝ち抜く戦略
米国はUSCPAの母国であり、資格保有者が最も多い国です。そのため、資格を持っているだけでは「スタートライン」に立ったに過ぎません。競争率の高さは、ニューヨークやサンフランシスコのような大都市圏の金融・監査ポジションでは特に顕著です。
必要な「+α」の差別化ポイント
米国でUSCPAを活かすには、以下の3要素が不可欠です。
- 実務経験(最も重要):
- 日本の外資系企業での監査、財務、税務の実務経験。特にUS GAAPの適用経験は決定的な武器になります。
- 日本のBig4で国際案件に携わった経験は、海外の採用担当者にとって理解しやすく、高く評価されます。
- 日本での実績を、数字と成果で具体的にアピールできるよう準備する。
- 専門性(ニッチ戦略):
- 大半の受験者が狙う分野ではなく、IT監査、M&Aデューデリジェンス、国際税務(ディシプリンのTCP知識を活用)など、ニッチな専門分野に特化する。
- 例:「USCPAを持ち、かつSaaS企業の収益認識基準(ASC 606)に精通している」といった具体的な専門性を提示する。
- ネットワークとビザ戦略:
- LinkedInを駆使し、現地人脈や日本人コミュニティとのネットワークを構築する。内部紹介(リファラル)は、米国での就職成功率を格段に高めます。
- ビザスポンサーとなる企業を見つけるため、現地のリクルーターや転職エージェントを早期に活用する。
【具体的な戦略:地域・業界の選択】
競争が激しいニューヨークやシリコンバレーばかりに固執する必要はありません。
- 戦略的な地方都市: 中西部の工業都市や南部の成長都市など、会計士の需要は高いが競争が比較的緩やかな地域を狙う。
- 日系企業の米国支社: 日本語能力とUSCPAを持つ人材は、日系企業の現地法人でブリッジ人材として重宝されます。最初の足がかりとして最適です。

とりしまの知人のUSCPA保持者(中国出身)Pちゃんは、現地のコミュニティカレッジから大学に転校し、CPAを取得。母語とチャイニーズネットワークで盤石か?と思っていましたが、彼女のような人は山ほどいるので分野を特化してさらにコツコツと学習、就職、転職を繰り返してキャリアを着実に積んでいきました。
今はシリコンバレーにコンドミニアムと一戸建てを所有するバリキャリ女子です。
3. 非承認国(シンガポール、ドバイなど)で間接的に活かす
MRAを締結していないアジアの金融ハブ(シンガポール、香港)や中東(ドバイ)でも、USCPAは非常に高い評価を受けます。
評価される理由:国際的な共通言語
これらの地域には多国籍企業が多く集積しており、以下の点でUSCPAが間接的な価値を持ちます。
- US GAAPの存在感: 世界的に利用されるUS GAAP(米国会計基準)の知識は、企業のクロスボーダー取引や米国上場企業の子会社で必須です。
- 監査品質の証明: USCPAを取得したという事実は、世界水準の監査基準と高い職業倫理を理解している証明であり、現地CPA資格が国によってレベルに差がある中で、国際的な「品質保証マーク」として機能します。
- 金融・IT分野との親和性: 特にシンガポールのIT・フィンテック企業では、ディシプリン科目でISC(情報システム)を選択したUSCPA保持者が、内部統制やセキュリティ監査の専門家として高い給与で迎え入れられる傾向があります。
💡実務感のあるエピソード:

とりしまの別の知人のUSCPA保持者は、香港のプライベートエクイティファンドで、米国投資家向けのレポーティング業務に採用されました。
彼は現地CPAを持っていませんでしたが、「USCPAならUS GAAPの複雑な知識を持っている」と即座に判断され、即戦力として採用されました。このケースでは、資格は「特定のスキルセットを持つ証明」として機能したのです。
USCPAを取得した後の具体的なキャリアパスと待遇
USCPA資格は、単なる会計士に留まらない、幅広いキャリアパスを可能にします。ここでは、特に読者が気になる「給与」のリアルを含めて解説します。
📌重要:海外での給与は「あくまで目安」である現実
海外で提示される給与額は、現地採用か駐在員かという採用形態、国・都市の物価水準、そして為替レートによって大きく変動します。
採用形態 | 給与水準のベース | 特徴 |
現地採用(ローカル採用) | 現地の給与水準 | USCPAは現地基準の中で高いレンジを狙う武器になる。日本での水準より数字が下がることもあり得る。 |
駐在員(日本本社からの出向) | 日本の給与+高額な海外手当 | 住宅費・教育費などが会社負担となり、可処分所得が非常に高い。年収1,000万円を超えるケースが多い。 |
以下の年収レンジは、特に注記がない限り「現地採用のプロフェッショナルサービスにおける一般的な目安」としてご覧ください。
USCPAは、提示されるレンジの中で、資格を持たない人材よりも高い初任給や昇給率を勝ち取るための強力な材料となります。
1. 監査・会計事務所(Public Accounting)
最も王道なキャリアパスです。Big4(PwC、Deloitte、EY、KPMG)に入社できれば、短期間で質の高い国際的な経験を積むことが可能です。
🇺🇸 米国(現地採用)の給与目安
ポジション(役職) | 年収レンジ(USドル) | 日本円目安(参考) | キャリアのポイント |
Staff Accountant (アソシエイト) | $60,000 〜 $75,000 | 900万〜1,150万円 | USCPA取得直後。大都市のBig4でこのレベルからスタートすることが多い。 |
Senior Accountant / Auditor | $80,000 〜 $120,000 | 1,200万〜1,800万円 | 経験3〜5年。USCPAライセンス(実務要件クリア)保有が必須となるケースが多い。 |
Manager | $120,000 〜 $180,000 | 1,800万〜2,700万円 | 経験5年〜。チームマネジメントを行う中核ポジション。 |
🇨🇦 🇦🇺 MRA承認国(カナダ・豪州)の給与目安
MRA承認国では、現地CPA資格者とほぼ同等の評価となり、現地の高いプロフェッショナル水準の給与が適用されます。例えば、カナダのシニアアカウンタントでC100,000(約800万〜1,150万円)程度が目安となります。
2. 一般企業(Industry)
企業内の財務・経理部門で、経営の中枢を担う仕事です。特に外資系企業やグローバル企業で、USCPAは強く求められます。
ポジション例 | 求められるスキルセット | 海外での待遇イメージ |
Financial Analyst / Controller | 財務分析、予算策定、予実管理、経営層への報告。 | 安定性と高い昇給率。 資格が昇進の必須条件となる企業も多く、経営管理職(Controller, CFO)への道が開ける。マネージャー以上は年収1,000万円を超えるケースが多い。 |
Internal Auditor | 内部統制(ISC知識)、リスク管理、コンプライアンス。 | 専門性重視。 特に上場企業や金融機関で需要が高く、企業全体を俯瞰できるポジション。監査法人経験者からの転職も多い。 |
3. コンサルティング・アドバイザリー
USCPAは、専門知識を活かして企業の課題解決をサポートするコンサルタントとしても活躍できます。
ポジション例 | 求められるスキルセット | 海外での待遇イメージ |
Transaction Service | M&Aのデューデリジェンス、バリュエーション。 | 非常に高い年収。 スピード感と高度な専門知識が求められるため、給与水準は会計事務所の中でもトップクラス。実力次第でマネージャーレベルで2,000万円を狙える。 |
IT Risk Consultant | システム監査、サイバーセキュリティ、内部統制の構築(ISC知識)。 | 将来性が高い。 企業のDX推進に伴い需要が爆発的に増加しており、理系出身のUSCPA保持者にもチャンスが多い。 |
あなたの競争力を高めるために今すぐできること
USCPAを取得することと、それを「武器」にすることは違います。資格を活かして海外キャリアを成功させるには、計画的な準備が必要です。
1. 語学力は「専門知識の容器」である
USCPAは専門知識の証明ですが、それを現地で活用する「容器」は英語力です。単に日常会話ができるだけでなく、以下のようなビジネス環境で実力を発揮できるレベルが求められます。
- 専門用語の理解: 「Revenue Recognition(収益認識)」や「Impairment(減損)」など、会計・税務の専門用語を正確に使いこなす。
- 報告・プレゼンテーション: 複雑な財務状況や監査結果を、外国人上司やクライアントに論理的かつ簡潔に説明できる。
- 交渉と議論: 契約や意見の相違がある場面で、明確な意思を伝え、議論をリードできる。
具体的な目標: 資格取得を目指す今から、英語での財務ニュースやUSCPA関連のポッドキャストを聞き、専門分野での英語運用能力を高めましょう。

英語に苦手だから無理か、ではなく、
もうあなたはすでにグローバルなビジネス環境において極めて高い市場価値を生み出し、且つ学習が特に困難とされている日本語を完全マスターしている、と考えると英語をある程度習得すればこれ以上にない強みになるんです。
2. 実務経験は「海外向け」に再構築する
日本での実務経験を海外で高く評価してもらうには、履歴書や面接で「日本のローカルな経験」ではなく、「グローバルな成果」として再構築する必要があります。
NGな伝え方(ローカルな経験) | OKな伝え方(グローバルな成果) |
毎月の仕訳を約300件処理しました。 | 毎月のレポーティング業務において、米国本社の要求に基づきUS GAAPベースでの連結パッケージ作成を担当し、締め切りを2日間短縮しました。 |
経費精算システムの導入を手伝いました。 | 新しい経費精算システムの導入において、**SOX法(米国企業改革法)に基づく内部統制(ITGCs)**の設計とテストを担当し、ISCの知識を実務で応用しました。 |
重要なのは、「USCPAで学んだ知識を、あなたの仕事でどう活かしたか」を明確に示すことです。
3. 挑戦の順序を間違えない
海外キャリアへの挑戦は、以下の順序を意識すると成功確率が上がります。
- USCPAの取得(資格というパスポートの確保)
- 英語力・ディシプリン科目の専門性を磨く
- 承認国での求人リサーチと現地人脈構築
- 承認国での就職(経験の足場固め)
- 米国への挑戦(競争激しい市場での差別化)
承認国で1〜2年の実務経験を積むことは、競争の激しい米国市場や、待遇の良いシンガポールへの「踏み台」として極めて有効な戦略です。

壮大すぎる、と少し一杯一杯に感じるかもしれません。
もしこれからUSCPAの取得に取り掛かろうと考えているなら一度アビタス、CPA会計学院のような予備校の無料説明会および相談会に申し込むとあなたの疑問や不安が解決され、「自分でもできる」と実感できるでしょう。
まとめ:USCPAは「可能性の扉」を開く鍵
USCPAは、間違いなく海外キャリアを築く上で最強の武器の一つです。
しかし、資格はあくまで「可能性の扉を開く鍵」に過ぎません。その扉を開いた先に待つ競争に勝ち抜くためには、最新の試験制度と国際承認の状況を理解し、高い英語力と海外で通用する具体的な実務経験を組み合わせる必要があります。
資格取得をゴールとせず、「どの国で、どの専門分野で、どう活かすか」を戦略的に設計することこそが、グローバルな舞台で成功を掴むための唯一の近道です。
あなたのキャリア戦略に、この記事がお役に立てれば幸いです。