毎年7月1日、カナダは赤と白のナショナルカラーに染まり、
花火やパレードで盛大に建国記念日『カナダデー』を祝います。
街は笑顔で溢れ、まさに「お祭りムード」一色に。
でも、こんなお祝いムードの中で、ふと疑問に思ったことはありませんか?
「カナダって独立国だよね?」「
それなのに、今も流通しているカナダの20ドル紙幣には、エリザベス女王の肖像が描かれているのはなぜだろう?チャールズ国王になったのに、まだ女王様?」
この素朴な疑問の裏には、カナダという国のユニークで奥深い歴史が隠されています。
実は、新しい紙幣のデザインは発表されていますが、実際に流通するのはこれから先。このコラムでは、そんなカナダの「ちょっと不思議で面白い」ルーツを紐解きながら、カナダデーの本当の意味、そしてお札の謎を解き明かしていきます。
異文化を理解することは、単に英語の知識を増やすだけでなく、あなたの視野を広げ、英語学習をさらに奥深く、魅力的なものにしてくれるはずです。さあ、一緒にカナダの歴史と文化の旅に出かけましょう!
7月1日、カナダ連邦の誕生:まずは基本を押さえよう
毎年7月1日。この日付がカナダにとって特別な意味を持つのは、1867年のその日に『英領北アメリカ法 (British North America Act)』が制定されたからです。
これは、当時バラバラだったノバスコシア(Nova Scotia)、ニューブランズウィック(New Brunswick)、そしてカナダ州(Province of Canada)(現在のオンタリオ州(Ontario)とケベック州(Quebec)にあたる地域)といったイギリス領の植民地が、一つのまとまった「カナダ連邦 (Dominion of Canada)」として誕生することを定めた法律でした。
つまり、カナダデーは、バラバラだった地域が手を取り合い、新しい国としてスタートを切った日をお祝いする記念日なんですね。
ただし、この時点でのカナダは、現在の「完全に独立した国」とは少し違いました。イギリスの**「自治領 (Dominion)」**という立場だったのです。これは、ある程度の自治権は持つものの、外交や国防などはまだ宗主国であるイギリスの支配下にあった、ということを意味します。
ちなみに、この祝日はかつて「ドミニオン・デー (Dominion Day)」と呼ばれていましたが、1982年に現在の「カナダデー (Canada Day)」へと名称が変更されました。この名称変更の背景には、カナダがより一層、独自のアイデンティティを確立していこうとする強い意志が込められています。
ここで学べる英語表現
- British North America Act: 英領北アメリカ法(カナダ建国の基礎となった法律)
- Dominion of Canada: カナダ連邦(1867年当時のカナダの正式名称)
- Dominion: 自治領(宗主国の支配下にあるが、一定の自治権を持つ地域)
- establish: 設立する、制定する
- unite: 統合する、結びつける
- identity: アイデンティティ、独自性
「完全な独立」への長い道のり:複雑な関係性の始まり
1867年に「自治領」としてスタートしたカナダですが、その後の道のりは、完全に独立した国家へと歩みを進めるための長い旅でした。
特に大きな転機となったのが、第一次世界大戦です。カナダ兵はイギリスの指揮下で多くの犠牲を払いながらも、その勇敢な戦いぶりは国際社会で高く評価されました。これにより、カナダは単なる「イギリスの植民地」ではなく、国際的な場で独自の意見を主張するにふさわしい存在だと認められるようになります。
そして1931年、歴史的な転換点が訪れます。『ウェストミンスター憲章 (Statute of Westminster)』という法律が制定されたのです。これにより、イギリス連邦に属する「自治領」たちは、イギリスと対等な主権を持つ (fully sovereign) ことが公式に認められました。この瞬間から、カナダは外交面でも自由に振る舞える「実質的な」独立国家となったのです。
しかし、それでもまだ一つだけ、イギリスの手を借りる必要があった重要な点がありました。それは「カナダ自身の憲法を、自分たちの手で改正する権利」です。憲法の最終的な改正権は、依然としてイギリス議会の手にありました。
この最後の「しがらみ」を完全に断ち切ったのが、1982年『カナダ法 (Canada Act 1982)』の制定です。この法律によって、カナダは自国の憲法改正権を完全にイギリスから取り戻し (patriate)、名実ともに完全に独立した主権国家となりました。
まさにこの時、カナダは本当の意味で「自分たちの国」を完全に手にしたと言えるでしょう。
流れをざっくりまとめると以下のようになります。
- 1867年カナダ連邦の誕生
『英領北アメリカ法 (British North America Act)』制定。複数のイギリス領植民地が統合し「カナダ連邦 (Dominion of Canada)」発足。イギリスの「自治領 (Dominion)」としての出発。
- 第一次
世界大戦第一次世界大戦での国際的評価カナダ兵の活躍により 国際社会での評価向上。 イギリスからの自立意識の萌芽。
- 1931年ウェストミンスター憲章の制定
『ウェストミンスター憲章 (Statute of Westminster)』制定。イギリス連邦の自治領がイギリスと「対等な主権を持つ (fully sovereign)」こと公式承認。「実質的な」独立国家へ。
- 1982年カナダ法の制定と完全な独立
『カナダ法 (Canada Act 1982)』制定。自国の憲法改正権を完全にイギリスから「取り戻し (patriate)」。名実ともに完全な独立国家。
- 1982年「カナダデー」への名称変更
祝日名称を「ドミニオン・デー (Dominion Day)」から「カナダデー (Canada Day)」へ変更。カナダ独自のアイデンティティ強調。
ここで学べる英語表現
- Statute of Westminster: ウェストミンスター憲章(英連邦自治領の独立を認めた法律)
- fully sovereign: 完全な主権を持つ
- diplomacy: 外交
- constitution: 憲法
- patriate: (憲法などを)本国に移管する、自国のものにする
- establish independence: 独立を確立する
なぜお札に女王様がいる理由?:英連邦王国というユニークな形
さて、これでカナダが完全に独立した国であることは分かりましたね。でも、最初の疑問「それなら、なぜカナダの20ドル紙幣にはまだエリザベス女王(Queen Elizabeth II)の肖像が描かれているの?」という謎は残ったままです。
この謎を解く鍵は、「英連邦王国 (Commonwealth Realm)」というユニークな制度にあります。
カナダは現在、「イギリス連邦 (Commonwealth of Nations)」という組織の一員です。これは、かつてのイギリス帝国(British Empire)に属していた国々が、独立後も友好関係を維持するために作られた国際的な協力組織です。
その中でもカナダは、特に「英連邦王国 (Commonwealth Realm)」と呼ばれるグループに属しています。このグループの国々は、それぞれが完全に独立した主権国家でありながら、イギリス国王(現在はチャールズ3世(King Charles III))を自国の「国家元首 (Head of State)」として仰ぐという共通の特徴を持っています。
つまり、カナダの国家元首はイギリス国王が兼ねている、という形になっているんですね。カナダ以外にも、オーストラリア(Australia)、ニュージーランド(New Zealand)、ジャマイカ(Jamaica)なども同じ英連邦王国の一員です。

新しいカナダの首相(Prime Minister)が就任すると、イギリス国王(King of the United Kingdom)に謁見し、挨拶に行くのが伝統となっています。
最近の例だとマーク・カーニー氏(Mark Carney)がチャールズ3世にご挨拶に行っていましたね。
もちろん、イギリス国王はカナダの象徴的な存在 (symbolic figure) であり、政治的な実権は持っていません。カナダの政治は、国民によって選ばれた首相が率いるカナダ議会が運営しています。お札に国王の肖像が描かれているのは、このような歴史的経緯と、国王がカナダの統一と継続性を象徴する存在であるためなのです。ちなみに、新しいカナダの20ドル紙幣にはチャールズ3世国王の肖像が採用される予定ですが、実際に流通し始めるのはもう少し先になります。

現在の20ドル紙幣にはエリザベス2世の肖像が描かれており、チャールズ3世国王(King Charles III)の肖像が入った新しい紙幣が発行されるのはもう少し先(早くても2027年頃)の予定です。
ここで学べる英語表現
- Commonwealth Realm: 英連邦王国(イギリス国王を元首とする独立国家群)
- Commonwealth of Nations: イギリス連邦(かつてのイギリス帝国を構成した国々の協力組織)
- Head of State: 国家元首
- symbolic figure: 象徴的な人物、象徴的存在
- monarch: 君主、国王
- symbol of unity: 統一の象徴
カナダデーの本当の意味と多様性:現代への視点
ここまでカナダの独立と英国王室との関係について見てきましたが、現代の「カナダデー」は、単なる独立記念日以上の意味を持っています。
カナダは、フランス系(French-speaking)、イギリス系(English-speaking)、そして古くからこの地に暮らす先住民(First Nations)など、様々なルーツを持つ人々が協力し、多文化主義 (multiculturalism) を尊重しながら国家を築いてきた歴史があります。カナダデーは、そうした多様な文化が共存し、一つの国を形成してきた道のりを祝う日でもあるのです。
しかし、近年では、特に先住民の人々が経験してきた歴史的苦難、例えば「寄宿学校(residential schools)」での強制的な同化政策などに向き合い、和解 (reconciliation) を進めようとする動きが活発になっています。そのため、カナダデーの祝い方やその意味合いについても、国民の間でより深い議論が交わされるようになっています。例えば、先住民の文化や歴史を尊重する「オレンジシャツデー(Orange Shirt Day)」のような日も、カナダの重要な祝日として認識されつつあります。
カナダデーは、過去を振り返り、多様性を称えつつ、すべての人々にとってより公平で包括的な社会 (inclusive society) を築いていこうとするカナダ国民の強い思いが込められた日と言えるでしょう。
ここで学べる英語表現
- First Nations: 先住民(カナダの原住民の総称)
- multiculturalism: 多文化主義
- reconciliation: 和解
- inclusive society: 包括的な社会(多様な人々が共存できる社会)
- coexist: 共存する
- heritage: 遺産、伝統

国によって先住民の言い方が異なるところが面白いですねー。
アメリカではNative Americanって呼ばれたりもしたものですが、
近年ではIndigenous peoplesって言うことも増えてきて、
昔の呼び方に違和感を覚える人もいるみたいです。
💡ここでのpeoplesは「部族」や「民族」を意味しています。
英語学習へのヒント:異文化を知ることの面白さ
「カナダデー」という祝日一つをとっても、その背景にはこれだけ複雑で奥深い歴史と文化が詰まっていることがお分かりいただけたでしょうか?
英語学習は、単語や文法を覚えるだけではありません。その言語が話されている国の人々の考え方、歴史、文化を知ることで、ぐっと面白く、そして実践的なものになります。
今回のカナダデーのように、身近な疑問から異文化の世界に飛び込んでみましょう。
- カナダデーの時期には、カナダのニュースサイト(例: CBC News, Global News)で関連する記事を英語で読んでみましょう。
- YouTubeで「Canada Day fireworks」や「Canada Day parade」と検索し、実際のイベントの様子を英語の解説付きで見てみるのも良いでしょう。
- もしカナダ人の友人がいれば、「How do you celebrate Canada Day? (カナダデーはどうやってお祝いするの?)」「What does Canada Day mean to you? (カナダデーはあなたにとってどんな意味がある?)」と質問してみるのも、生きた英語を学ぶ良い機会になります。
異文化理解は、あなたの英語力を飛躍させるだけでなく、世界への視野を広げる最高のパスポートになるはずです。
Happy Canada Day!